㊻『おんがく』

私はずっと音楽が好きだった。 聴くだけで胸の奥がふっと軽くなる瞬間があって、気づけば音楽はいつも私のそばにいた。けれど、ただ好きでいるだけでは足りないと思うようになったのは、最近のことだ。自分の手で音をつくりたい。誰かの心にそっと触れるようなメロディーを生み出したい。そんな気持ちが、少しずつ形になってきた。

作曲家を目指すと決めたのは、ある日ふと見つけた“とても安い音楽学校”がきっかけだった。東京にあるその学校は、習い事の延長のような気軽さで通えるらしい。月謝は二万円。私にとっては決して安くはないけれど、「これなら頑張れば通えるかもしれない」と思わせてくれる現実的な数字だった。

ピアノはまだ上手く弾けない。 楽典の本も何冊か持っているけれど、難しくて途中でページを閉じてしまうことも多い。だけど、それでもメロディーを作りたい気持ちは消えなかった。長い曲じゃなくていい。短くて、素朴で、でも自分の心がちゃんと入った曲を作りたい。作詞は苦手だから、まずは音だけで勝負したい。

実は、前から応募してみたい会社があった。 そこに自分の曲を出してみたいという夢は、ずっと胸の奥にしまっていたものだ。今回、学校を見つけたことで、その夢が急に手の届く場所に降りてきた気がした。

もちろん、すぐに通えるわけじゃない。 お金を貯めなきゃいけないし、生活の中で優先順位を考える必要もある。でも、私は新しい夢を見つけた。夢があるというだけで、毎日の景色が少し明るくなる。そう思えたことが、何より嬉しい。

これから少しずつ準備をしていく。 焦らず、でも確かに前へ進んでいく。 音楽の道は長いかもしれないけれど、私はその最初の一歩を踏み出したところだ。