㊺『てんごく』

ときどき、地球が少しだけ重たく感じる日がある。 空気が胸の奥にひっかかって、深呼吸をしても息がうまく入ってこないような、そんな日。 そんなとき、私はふっと天国のことを思い浮かべてしまう。
天国には、会いたい人がいる。 家の前のおじちゃん。 小さな頃、私を見つけると「おかえり」と笑ってくれた人。 その笑顔は、夏の夕方みたいにあたたかくて、安心できる光だった。 中学生のころ、その光は天国へ旅立ってしまったけれど、思い出の中では今もやさしく輝いている。
地球はときどき息苦しい。 でも、苦手だと思うのは、きっと「大切な人に会えない」という寂しさが胸の奥に残っているからだ。 家の前のおばちゃんは今も生きている。 あの家は、私にとって小さな避難所みたいな場所だった。 けれど、父に「帰ってくるな」と言われてから、その道は閉ざされてしまった。
会いたいのに、会えない。 その距離は、地図では測れないほど遠い。
だから私は、せめて誕生日にハガキを送ろうと思っている。 たった一枚の紙でも、そこに気持ちをのせれば、少しだけ距離が縮まる気がする。 「元気でいてね」と書くたびに、私自身も少しだけ元気になれる。
人生は後悔しないように生きたい。 極楽浄土という言葉を思うと、心のどこかがふっと軽くなる。 そこには、優しさや懐かしさが静かに流れている気がするからだ。 天国を願う気持ちは、逃げたいというよりも、「安心できる場所を思い出したい」という祈りに近いのかもしれない。
こんな話をしてしまって申し訳ないと思う気持ちもある。 でも、誰かに聞いてほしい気持ちも確かにあって、私はその両方を抱えながら今日を生きている。 地球はときどき苦しいけれど、思い出の中の優しさが、私をそっと支えてくれている。


