㊸『管楽器』

音楽が好きだ。 ずっとピアノを弾いてきた私にとって、鍵盤は安心できる場所で、触れれば音が返ってくる確かな存在だ。それでも最近、心のどこかで弦楽器の音色が私を呼んでいる。細い線が張られたあの世界に、なぜか惹かれてしまう。

バイオリンは少し習ったことがある。けれど、あの細い弦がどこか怖くて、弓を構えるたびに緊張してしまう。アコースティックギターにも興味があるけれど、どちらに進むべきか、気持ちは揺れたままだ。

今は一万円前後で買えるような、手軽に触れられる音楽の道具に心が向いている。大人になったら、本格的に弦楽器を始めたい──そんな未来の自分を想像することもある。

バイオリンは家にある。ギターは昔、実家の近所のおばちゃんに貸してもらって独学で弾いていた。でも、独学はやっぱり難しくて、思うように音が出なかった。あの頃の挫折感が、今も少し胸に残っている。

グループホームでは音が響いてしまう。バイオリンもギターも、練習すればどうしても音が大きくなる。周りに迷惑をかけてしまうのではないかと思うと、踏み出すのが難しい。 障害がある身で習い事を続けることの大変さも、身にしみてわかっている。

それでも、弦の音に惹かれる気持ちは消えない。 細い線の向こう側に、まだ知らない自分がいるような気がしてならないのだ。