㉔『スマートフォン』

スマートフォンを買い替えた。 それは、ただの機種変更ではなかった。 私にとっては、心の奥にある不安や迷いと向き合う、ひとつの節目だった。
前のスマホは、もう限界だった。動画は止まり、動きも鈍く、日々の小さなストレスが積もっていた。グループホームでの生活では、スマホは大切なつながりの道具。だからこそ、壊れる前に新しいものを手に入れようと決めた。
けれど、イオンのドコモショップでの出来事は、私の心を大きく揺らした。 本当は、分割払いにするつもりだった。無理のないように、少しずつ払っていくつもりだった。 でも、幻聴の声が私の判断を狂わせた。「今すぐ払え」と、強く、鋭く。 気づけば、22,000円を一括で支払っていた。
手続きを終えたあと、私は深くため息をついた。 「またやってしまったかもしれない」 「本当にこれでよかったのかな」 そんな思いが、胸の奥でぐるぐると渦を巻いた。 自分を責める気持ちと、「でも、もう終わったことだ」という諦めが交差して、心が静かにざわついていた。
けれど、手にしたスマホは、思いのほか美しかった。 白くて、つややかで、まるで朝の光をそのまま閉じ込めたような色。 前の黒いスマホとはまったく違う雰囲気で、手のひらに乗せると、少しだけ気持ちがやわらいだ。
まだ慣れない。 絵文字の出し方も変わっていて、文字を打つたびに戸惑う。 画面も少し大きくなって、指がうまく動かない。 「なんでこんなに打ちづらいんだろう」 「やっぱり前のままでよかったんじゃないか」 そんな思いが、ふと心をかすめる。
でも、ふと気づく。 この白いスマホは、私の選んだものだ。 たとえ迷いながらでも、私は自分の足でイオンに行き、自分の手で選んだ。 幻聴に揺さぶられながらも、私はちゃんとその場に立っていた。 それは、私にとって大きな一歩だった。
待ち時間は長くて、心も体も疲れたけれど、 家に帰ってスマホの画面を見つめたとき、ふと笑ってしまった。 「白って、案外いいかも」 そんなふうに思えた自分が、少しだけ誇らしかった。
これから少しずつ、このスマホと仲良くなっていこう。 不安や後悔があっても、それでも前に進もうとする気持ちが、私の中にはちゃんとある。 それは、誰にも見えないけれど、確かにここにある小さな希望。 白いスマホは、そんな私の新しいスタートを、そっと照らしてくれている。


