【55】踊る指

最近、ピアノの前に座ると、指が驚くほどよく回る。 鍵盤の上をすべるように動いていく自分の手を見ながら、「あれ、こんなに弾けたっけ」と思う瞬間がある。調子がいいときというのは、どうしてこんなに心まで軽くしてくれるのだろう。

だから今は、この波に乗って、できるだけたくさん弾いておきたい。 音が部屋に満ちていく時間が、少しずつ自分を取り戻していくようで心地いい。

とはいえ、難しい曲はやっぱり難しい。 ミセスグリーンアップルの「ケセラセラ」は特に手強くて、まだ指が迷子になるところがある。完璧に弾けていたころを思い出すと、少しだけ胸がきゅっとする。あの頃の自分に、また追いつけるだろうか。

中学や高校の卒業式で伴奏を任されたときは、本当に嬉しかった。 あの広い体育館に響くピアノの音、緊張で震える指、それでも最後まで弾き切れた達成感。あの瞬間は、今でも宝物のように心に残っている。

けれど、思い返すと苦しい記憶もある。 自分の意思とは違う何かに「乗り移られた」ように指が動かなくなってしまった時期があって、あの感覚は今でも少し怖い。弾きたいのに弾けない、そんなもどかしさが長く続いた。

それでも今、また指が動き始めている。 音が戻ってきている。 その事実が、何よりの希望だと思う。

ピアノは、時に裏切るように感じることもあるけれど、やっぱり私にとっては特別な存在だ。 これからも、調子の良い日も悪い日も、鍵盤に触れながら少しずつ前に進んでいきたい。