【55】おとうと

わたしには弟がいる。 小さな頃のわたしたちは、ただ無邪気に笑い合い、蹴り合い、戦いごっこをして遊んでいた。 わたしとは違って、弟は驚くほど可愛らしい顔をしていて、親戚にもよく褒められていた。

けれど、わたしが高校生になった頃、何かが変わってしまった。 理由をはっきり言葉にできないまま、弟を避けるようになり、気づけばほとんど話さなくなっていた。 その沈黙の時間は、思っていた以上に長く続いた。

気づけば弟は、わたしの身長を追い越していた。 声もいつの間にか低くなり、あの頃一緒に遊んでいた男の子とは別人のようだった。 今では180センチを超え、野球やサッカーに打ち込む立派な青年になっている。 スポーツが好きなのは、小さな頃から変わらない。 野球ではピッチャーを任され、最優秀選手のトロフィーを四つも手にしていた。

そんな弟は今、歯科技工士としてデジタルの分野で働いている。 その姿を知ったとき、素直に「すごいな」と思った。 社会にしっかりと貢献し、自分の道を歩んでいる。 わたし自身も頑張ってきたつもりだけれど、弟の成長を知るたびに、どこか羨ましさが胸の奥で静かに疼く。

今は昔のように仲良くはない。 けれど、立派になった弟が実家に帰ってくる姿を見ると、 あの小さかった背中が、こんなにも大きくなったのだと、しみじみ思う。 そして、わたしが距離を置いてしまった時間の長さを、ふと悔やむこともある。

それでも、弟が弟として、まっすぐに成長してくれたことが嬉しい。 羨ましさも、誇らしさも、後悔も、全部ひっくるめて、 「立派になったな」と心から思う。