【54】めびうす

朝、目が覚めると同時に、私はもう自分の一日を選べていない。 最初に手にするのは、メビウスの3ミリのロング。吸いたいわけじゃない。けれど「吸わされてしまう」。そんな感覚が、ここ最近ずっと続いている。
煙草の火をつけるまでの短い待ち時間でさえ、胸の奥がぎゅっと縮むように窮屈だ。まるで誰かに急かされているようで、逃げ場がない。一本吸えば落ち着くのかと思えば、肺に入っていく感じが薄く、すっきりしない。満たされないまま、ただ本数だけが増えていく。
一日一箱。 数字にすると小さく見えるかもしれないけれど、財布の中身は確実に軽くなっていく。水蒸気のタバコなら少しは違うかと思ったが、カートリッジ代がかさむ現実に気づいて、ため息がひとつ増えた。
病院に行けばやめられるらしい。 そう聞いたことはある。でも、私の中では「呪い」のようなものが煙草を手放させてくれない。意思とは別の力が働いているようで、どうにもならない気がしてしまう。
本当は、煙草の匂いのしない朝を迎えてみたい。 吸わされるのではなく、自分で選んだ一日を始めてみたい。 そんなささやかな願いが、今の私には少し遠く感じられる。
それでも、いつかきっと。 呪いのようなものが薄れて、呼吸が軽くなる日が来ると信じていたい。


