⑰『手術当日』

手術当日

— 強さって何だろう —

父の手術当日。
時間はゆっくり進んでいるようで、
気づくと同じ時計を何度も見ていました。
待っているだけなのに、
体のどこかがずっと落ち着きません。

白内障の手術は、
よくある手術だと分かっています。
大きな心配はいらないと、
何度も自分に言い聞かせました。
それでも、
「何かあったらどうしよう」
そんな考えが、ふと頭をよぎります。

待っている間、
私は母の様子をよく見ていました。
特別に何かを言うわけでもなく、
普段と同じように振る舞っている母。
でも、その静けさの奥に、
きっといろいろな思いがあるのだと思います。

不安を口にするでもなく、
大丈夫だよ、と言うでもなく、
ただ、そこにいる。
それが母のやり方なのかもしれません。

私は、どうしても気持ちが顔に出てしまいます。
心配になると、そわそわして、
落ち着かなくなる。
でも母は、
揺れていないように見えます。
本当は揺れていても、
それを外に出さない。

その姿を見ていて、
「強さって何だろう」と考えました。
声を張ることでも、
気丈に振る舞うことでもなく、
ただ、黙って耐えることなのかもしれません。

昔は、
強い人=何でも平気な人
だと思っていました。
でも今は、
不安を抱えたままでも、
日常を崩さずにいられる人こそ、
強いのかもしれないと思います。

父の手術が終わるまでの時間は、
長いようで、あっという間でした。
結果を聞いたとき、
大きく息を吐いた自分に気づきました。
安心したのと同時に、
どっと力が抜けました。

母は、相変わらず静かでした。
でも、その背中を見ていて、
私は思いました。
この人は、ずっとこうやって、
家族を守ってきたんだな、と。

強さって、
目立つものじゃない。
声に出さなくても、
ちゃんとそこにある。

待つ時間の中で、
そんなことを、
少しだけ理解できた気がします。